支部学習会記念講演
2026年度
「権利・人権と発達保障」
藤井 克徳 さん(日本障害者協議会代表)
神奈川県相模原市の障害者施設で起きた痛ましい殺傷事件から10年が経過しました。藤井さ んは、事件から半年後に刊行した著書『生きたかった―相模原障害者殺傷事件が問いかけるもの』 (大月書店)の中で、「この事件は現代日本社会の投影であり、障害者問題の縮図と位置付けてい いのではないでしょうか」と述べています。 私たちの生きる現代日本には、あらゆる場面において競争を通じて人びとを序列化し、無意識の うちに優劣をつける能力主義的な価値観が浸透しているといえます。たとえば教育では、全国学 力・学習状況調査(いわゆる学力テスト)に関わる施策がもたらす教育の硬直化が、特別支援学級 に在籍する児童生徒や不登校児童生徒の増加につながっていると考えられます。また福祉におい ては、十分な公費拠出がないまま事業所間の競争を促す制度になっているため、地域によっては利 用者のニーズにあったサービスが届かず、その状況に合わせた生活や労働を強いられているケー スが後を絶ちません。こうしたしわ寄せは、より立場の弱い人やその家族のところへと向かい、さまざ まな人びとの生きづらさにつながっています。 殺傷事件加害者の供述によれば、施設利用者が「話せるか、話せないか」で加害対象を決めた といわれています。このように歪んだ障害者観もまた、この社会のなかで形成されたものであり、そ こに生きる私たちも無関係ではありません。 2014年、日本は障害者権利条約を批准し、あらゆる分野における障害の有無を超えた平等の 実現を目指してきました。しかし現実の歩みは遅く、理想にはまだ遠い状況です。 藤井さんは、あらゆる場面において、この障害者条約を羅針盤にして「社会のあり方を障害の視 点から問い直そう」と訴えています。1981年の国際障害者年の決議文にあり、藤井さんの著書の タイトルにもなった「障害者をしめ出す社会は弱く脆い」という言葉。今、あらためてこの言葉の意味 を分野・領域を超えてみなさんと考え合う機会にしたいと考えています。
2025年度
「発達保障ってなに?―実践に活かすキーワード―」
藤野 友紀 さん(札幌学院大学)
みなさんは発達保障や発達保障論に対してどのようなイメージをお持ちですか?もし「発達を保障してあげる」
とか「できないことをできるようにする」といったイメージを抱いているならばそれは大きな誤解です。発達保障論の中核にあるのは、「発達の主体は子ども」「教育は子どもの"思い"に"思い"を寄せるもの」という思想だと私は思っています。発達保障論は粘り強い実践と真摯な振り返りの積み重ねから練り上げられてきたもので、
異なる現場にいる人たち同士が互いの実践について深く共有し語り合うための言葉と視点を提供してくれます。
今回は二通先生から貴重な機会をいただきました。はじめにお断りしておくと、私は発達保障論を完全に理解していると胸を張って言えるわけではありません。でも皆さんと共に学ぶ中で、私自身もさらに理解を深められたらと願っています。当日は、発達保障論の中でも特に魅力的かつ重要なキーワードを中心に、実践の中で子ど
もをどう理解していくのか、教育をどう考えていくのかに迫りたいと思います。具体的なキーワードとして、「心の杖」「ヨコへの発達」「発達的抵抗」「発達の連関」「間のあるかかわり」「子どもの発達要求(問題行動と発達要求)」などを予定しています。また、発達保障の考え方に照らして、IQを指標に子どもの発達を捉えることの陥穽についても考えてみたいです。
2024年度
「みんなのねがいでつくる学校・教育実践」
川地 亜弥子 さん(神戸大学・全障研副委員長)
川地さんは、著書『みんなのねがいでつくる学校』(クリエイツかもがわ)のなかで、「学校は子どもを主人公として、子ども・教師・保護者のねがいを育て、深める場所であり、そのことで社会の問題、矛盾に気づき、他者と共に変えていこうとする子どもを育てる場所である」と述べています。教育、そして学校のあり方が、その「外」にあるあらゆるものに翻弄される今日。実践者のねがいが大切にされた教育実践をご紹介いただきながら、あらためて学校の役割は何か、そして私たちの本当のねがいは何なのかについて、みなさんとともに考えたいと思います。
また、川地さんは、別の著書(『子どもとつくるわくわく実践』全障研出版部)において、教育・福祉等の実践者には「楽天性」が必要とし、さらに子どもだけではなく、実践者にとっても「学校は、まず楽しいところでなければなりません」と述べています。日々の実践はうまくいくことばかりではなく、苦しいときがあります。しかし、そのようなときでも「『次は、こうしてみよう! 』と思えるような、『ねがい』が広がる瞬間がある」とした上で、そのような困難を突き抜ける楽天性を実践者集団のなかで共有することの意義を強調します。
自らが同僚とともに取り組む実践は、自身を含めた「みんなのねがい」が大切にされ、かつ楽しいものとなっているでしょうか。川地さんのお話から日々の実践を振り返り、次への一歩につなげていきましょう。
2023年度
「自閉スペクトラム症児者の心の理解」
別府 哲 さん(岐阜大学)
記念講演でお話をいただいた別府哲氏は、著書のなかで次のように述べています(『自閉スペクトラム症児者の心の理解』全障研出版部、2019年)。
「自閉スペクトラム症児者は人の心を理解するのが苦手。だから、コミュニケーションがうまくできない。そのため支援として心の理解を教えることが重要であると言われたりします。 しかし、コミュニケーションは、二人(双方)がわかり合うことで成立するものです。そう考えれば、コミュニケーションを深めるためには、自閉スペクトラム症児者に障害のない人の心を教える方向ではなく、障害のない人が自閉スペクトラム症児者の感じている世界を知る方向もとても大きな意味を持っているはずなのです。」
本記念講演をとおして、自閉スペクトラム症児者が感じている心の世界に近づき、発達的理解に基づいた指導・支援の在り方について、ご参加いただく皆さんとともに学び、考えたいと思います。